シモーヌ・ヴェイユの34年という短い生涯やその思想から受ける類いまれな「高潔さ」の印象は、キリスト教的な伝統のない私たち東洋人にとって文化的なバイアスによる錯覚なのかと一瞬疑わせるが、じつはそうではなく、西洋人も同じような印象を一様に抱いてしまうらしい。ヴェイユの友人のひとりは、「彼女と会うたびにおのれの自堕落ぶりを思いしらされて、恥ずかしくてたまらなくなる」と証言している。カトリックの作家ギュスターヴ・ティボンは、本書の「解題」で、「シモーヌ・ヴェイユを理解しようと思うなら、彼女が語ったのと同じ高みに立たなければならない。」(p346)と注意を促し、『荒地』の詩人T・S・エリオットは、ヴェイユの著作を読むという体験を通じて、「われわれはひたすら、ひとりの天才的な女性、その天才が聖者のそれにも似た一女性の人格におのれをさらさなければならない」(『根をもつこと』序文)という賛辞を贈った。才能豊かだったが不器用だったヴェイユは、生前、一冊の著書も刊行しなかった代わりに、だれにも真似のできない誠実さで真っ直ぐに行動し、やがて静かに燃え尽きた人だ。
1940年、フランスは、第二次世界大戦の緒戦でドイツに敗北し、国内は、北部のドイツ軍占領地帯と南部の自由地帯とに二分されていた。本書は、ヴェイユがパリから避難し、親交のあった神父の紹介により、ティボンの持つ南フランスの農場に身を寄せて、病弱な身には苦しい農作業にみずから進んで従事していた時期に執筆されたものだ。『重力と恩寵』(La Pesanteur et la Grâce)というタイトルは、彼女の約10冊のノートに残された哲学的断章を一冊の本にまとめた際に、編集者のティボンが命名したようなのだが、本書の内容を反映した見事なタイトルだ。けれども、同時に、物理学的な概念の「重力」と、キリスト教神学の「恩寵」(=神の恵み)との組み合わせは、常識的にはとても奇妙なものだと思う。この組み合わせは、おそらく、ヴェイユが葡萄摘みなどの農作業からインスピレーションを得たもので、土中にしっかりと根を張り、「重力」にあらがい、太陽の光という「恩寵」に向かって伸びてゆく植物の成長運動を暗喩したものと解釈したい。だが、ヴェイユの本書での考察は、そういう単純な連想にとどまらず、「真空」「不幸」「不在」などのネガティヴな概念と融合した超自然的な世界観を形成している。
・「たましいの自然な動きはすべて、物質における重力の法則と類似の法則に支配されている。恩寵だけが、そこから除外される。」(p9)
・「創造は、重力の下降運動、恩寵の上昇運動、それに二乗された恩寵の下降運動とからできあがっている。」(p13)
・「自分を低くすることは、精神的な重力に反して上って行くことだ。精神的な重力は、わたしたちを高みへとおとす。」(同)
・「恩寵は充たすものである。だが、恩寵をむかえ入れる真空のあるところにしか、はいって行けない。そして、その真空をつくるのも、恩寵である。」(p24)
・「真空を充たすものとしての想像力が働きだすのを、自分の内部でいつも一時中断すること。/どんな真空でもいい、受け入れるならば、どんな運命の一撃におそわれても、宇宙を愛するのをやめることはあるまい。」(p37)
・「この世の生き地獄。不幸の中にあって、すっかり根をもぎとられていること。」(P53)
・「何ごとが起ころうとも、不幸が大きすぎるなどと思うことがあろうか。なぜなら、不幸に烈しくおそわれ、不幸のために屈従を強いられてこそ、人間の悲惨を知ることができるのだから。それを知ることこそが、あらゆる知恵への門なのであるから。」(p64-p65)
・「神の不在は、完全な愛を何よりもみごとに証拠立てている。だからこそ、純粋な必然、善とはあきらかにことなった必然は、こんなにも美しいのである。」(p177)
・「<読み>の重ねあわせ。感覚の背後に必然を<読む>こと。必然の背後に秩序を<読む>こと。秩序の背後に神を<読む>こと。」(p221)
・「恩寵を映す鏡としての下降運動こそ、あらゆる音楽の本質である。そのほかのものはただ、この本質の賑わしの役目しかしていない。」(p244)
この引用文中の上昇運動と下降運動という概念は、古典的なニュートン力学をかなり意識したもののように思われる。もともと、ヴェイユは、同時代の政治的課題に対し急進的にコミットする行動派の若き哲学教授だった。しかし、三度の「キリスト教との出会い」と呼ばれる神性の顕現体験を転回点とし、自身が12歳の時から患っていた偏頭痛(ときに食事や睡眠ができないほどの激痛だった)などの「不幸」の本質を考察し、最終的には、自尊心を失い、社会的に孤立した状態にある人々に対しキリスト教的な「恩寵」への積極的な契機を認めることによって、彼女の思想は、詩的な美や聖性の輝きを持つまでに至ったのだった。特に、先の引用文中の「精神的な重力は、わたしたちを高みへとおとす。」「神の不在は、完全な愛を何よりもみごとに証拠立てている。」といったパラドキシカルな論理は、彼女独特の自己否定的な志向を暗示している。現実の彼女もまた、底辺の肉体労働の生活に甘んじながら、さらなる清貧と飢餓の状況に自身を追い込んでいく。まるで、旧約聖書『ヨブ記』の義人ヨブのように、耐えるべき試練が過酷であるほど、神の業、つまり「恩寵」の到来が約束されるかのようだ。
さて、ここまで私はつたないレビューに贅言を費やしてきたが、ほんとうは、『重力と恩寵』の断章を拾い読みするたびに、ヴェイユが、この地上にある価値や美意識を無化し、転倒させた形而上学的宇宙を幻視していたような感動を覚える、と一言いいたかっただけだ。ティボンは、「解題」でこうもいっている。「シモーヌ・ヴェイユの文章は、注釈などつけたりすれば、かえって品位をおとし、歪曲するだけになりかねないような、すぐれて偉大な作品の部類にはいるものである」(p315)、と。たしかにそのとおりだと思う。今後も私は、ヴェイユの著作を読み続けるだろうし、その高潔な肖像を心から敬愛し続けるに違いない。
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重力と恩寵 (ちくま学芸文庫 ウ 5-1) 文庫 – 1995/12/7
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- ISBN-104480082425
- ISBN-13978-4480082428
- 出版社筑摩書房
- 発売日1995/12/7
- 言語日本語
- 本の長さ381ページ
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登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (1995/12/7)
- 発売日 : 1995/12/7
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 381ページ
- ISBN-10 : 4480082425
- ISBN-13 : 978-4480082428
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- - 2,378位哲学 (本)
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2015年5月6日に日本でレビュー済み
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キリスト教神秘主義的な要素が強く、意外と過激な部分も多い思想書。
持たぬこと、自己の否定・・・無を通して、心の平静を説く。
しかし、自己を否定するために、必然による部分も多く、端から誰にでも行えるものではない。
その上、救いのある思想ではない。ただただ、正しくあることができる。それだけである。
今の日本人にとっては、枕元にでもおいて、気が向いたときに、適当に2、3章を選んで読むくらいが丁度いい使い方な気がする。
持たぬこと、自己の否定・・・無を通して、心の平静を説く。
しかし、自己を否定するために、必然による部分も多く、端から誰にでも行えるものではない。
その上、救いのある思想ではない。ただただ、正しくあることができる。それだけである。
今の日本人にとっては、枕元にでもおいて、気が向いたときに、適当に2、3章を選んで読むくらいが丁度いい使い方な気がする。
2018年1月7日に日本でレビュー済み
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思わず「鋭い!」と唸りたくなるような簡潔で的を射た警句の数々。
何度でも繰り返し読みたくなる本の一つだ。
ヴェイユの言葉はストイックにみえるが、自身は一途に自分のやりたいことに全身全霊を傾け、最後は無理がたたって夭折してしまった、ととれなくもない。
教師をしながら左翼の労働組合活動に参加し、最後はキリスト教神秘主義へと接近した。
「労働者たちは、パンよりも詩を必要とする。その生活が詩になることを必要としている」
といった労働に関するアフォリズムも、幾多の経験を経たうえで、自身も工場労働者として辛酸をなめたうえで書かれた、それなりの含蓄を持つ言葉なのだ。
この人の宗教へのアプローチはいわゆる「否定神学」的なもので、ある意味、普通の宗教(組織宗教)とは逆の作用をもっている。
例えば、死後の生に慰めを見出そうとする人に彼女はにべもなくこう言う。
「霊魂不滅を信じるのは、害がある。というのは、たましいが本当にからだを持たないものであると想像するのはわたしたちの力にあまることであるから。そこで、霊魂不滅を信じるといっても、実際は、生命が延びると信じているわけで、死を役立たせることができない」
彼女は社会に対しても、宗教に対しても、マルクス主義に対しても手厳しい。この人の手にかかって普通に立っていられる人は少ないだろう。
彼女の作用の本質は「注意深くさせる」ということに尽きる。見過ごしてしまうような凡庸な風景の中に真実に至る閃光を見ようとする。
普段の会話の中ではこのような鋭い逆説的思考に接する機会は少ない。
だからこそ、何度でも繰り返し読む価値があるのだと思う。
何度でも繰り返し読みたくなる本の一つだ。
ヴェイユの言葉はストイックにみえるが、自身は一途に自分のやりたいことに全身全霊を傾け、最後は無理がたたって夭折してしまった、ととれなくもない。
教師をしながら左翼の労働組合活動に参加し、最後はキリスト教神秘主義へと接近した。
「労働者たちは、パンよりも詩を必要とする。その生活が詩になることを必要としている」
といった労働に関するアフォリズムも、幾多の経験を経たうえで、自身も工場労働者として辛酸をなめたうえで書かれた、それなりの含蓄を持つ言葉なのだ。
この人の宗教へのアプローチはいわゆる「否定神学」的なもので、ある意味、普通の宗教(組織宗教)とは逆の作用をもっている。
例えば、死後の生に慰めを見出そうとする人に彼女はにべもなくこう言う。
「霊魂不滅を信じるのは、害がある。というのは、たましいが本当にからだを持たないものであると想像するのはわたしたちの力にあまることであるから。そこで、霊魂不滅を信じるといっても、実際は、生命が延びると信じているわけで、死を役立たせることができない」
彼女は社会に対しても、宗教に対しても、マルクス主義に対しても手厳しい。この人の手にかかって普通に立っていられる人は少ないだろう。
彼女の作用の本質は「注意深くさせる」ということに尽きる。見過ごしてしまうような凡庸な風景の中に真実に至る閃光を見ようとする。
普段の会話の中ではこのような鋭い逆説的思考に接する機会は少ない。
だからこそ、何度でも繰り返し読む価値があるのだと思う。
2016年3月16日に日本でレビュー済み
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僕が上手に綴れないので、難しくなるかもしれない、と思いつつ。
今あなたが、苦悶や苦悩に満ちているのなら。
若いうちに、ページを捲ってほしい。
伝わるべきあなたが、今ここにいるうちに。生きているうちに。
伝うべきことが、真に伝わるうちに。
きっとあなたが、読むべき書です。
今あなたが、苦悶や苦悩に満ちているのなら。
若いうちに、ページを捲ってほしい。
伝わるべきあなたが、今ここにいるうちに。生きているうちに。
伝うべきことが、真に伝わるうちに。
きっとあなたが、読むべき書です。
2015年10月24日に日本でレビュー済み
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語学に明るくないので実際には無理だけども、彼女が書き記そうとした事をより実感を持って理解するためには、原文が読みたい。訳が良くないというわけではない。かなり緻密で繊細な考えが、抽象的表現で書き留められているように思うが、そういうことは単語のニュアンスや広がりの異なる、違う言語で置き換えるのは困難なのではないかと思う。読みながらここは何という単語、どういう表現を訳したのだろうと度々思う。彼女の意図と自分の理解が重なっているかはわからないが、ハッとさせられる部分は何箇所もある。彼女が感じ書き留めようとした事を正確に読み取り感じたいが中々難しい。難しいが理解したくて何度も読みたくなる魅力を秘めた文章であると思う。
2010年11月14日に日本でレビュー済み
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私も他のレビューにあったように、時おりこの本を読まずにはいられません。
周囲の人間への考察、自己の内面への深い内省、自分の生き方への決意、苦しみの中で神にすがりたいという思いからくるのでしょうが、神はいないと信じて求めよという決意、自分の欠点への考察、他者の悪行への原因への推察、時間にたいする自分の考えなどが数行でまとめられています。
全体としては体系のない思考です。
人は卵一つを求めるため8時間でも待てるのに、他人を救うため8時間待てないのはなぜか、それは重力のため。低い動機は強い重力、高い動機は弱い重力、といった「数学用語」もユニークです。
シモーヌ・ヴェイユの兄は世界的に有名な数学者アンドレ・ヴェイユです。彼女の数学的思考と哲学的思考のブレンドもユニークです。
現実の彼女は「行動派」でスペイン内戦に参加したり、農場や工場で働いたりと様々な「現場」を体験し、人間理解は深い。ユダヤ人ですから、「国家」概念がありません。
最期は両親の元を離れ、同胞のいるナチス・ファシズム時代のフランスに渡ろうとし、イギリスでフランスの同胞に連帯という思想から、ハンスト自殺に近い死を遂げます。
彼女の若い純粋な思考は、時おり心を洗われるようで、教わることの多い書物です。
周囲の人間への考察、自己の内面への深い内省、自分の生き方への決意、苦しみの中で神にすがりたいという思いからくるのでしょうが、神はいないと信じて求めよという決意、自分の欠点への考察、他者の悪行への原因への推察、時間にたいする自分の考えなどが数行でまとめられています。
全体としては体系のない思考です。
人は卵一つを求めるため8時間でも待てるのに、他人を救うため8時間待てないのはなぜか、それは重力のため。低い動機は強い重力、高い動機は弱い重力、といった「数学用語」もユニークです。
シモーヌ・ヴェイユの兄は世界的に有名な数学者アンドレ・ヴェイユです。彼女の数学的思考と哲学的思考のブレンドもユニークです。
現実の彼女は「行動派」でスペイン内戦に参加したり、農場や工場で働いたりと様々な「現場」を体験し、人間理解は深い。ユダヤ人ですから、「国家」概念がありません。
最期は両親の元を離れ、同胞のいるナチス・ファシズム時代のフランスに渡ろうとし、イギリスでフランスの同胞に連帯という思想から、ハンスト自殺に近い死を遂げます。
彼女の若い純粋な思考は、時おり心を洗われるようで、教わることの多い書物です。
2013年5月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
生齧りの知識で、この本に辿りつけたことには、感謝の気持ちでいっぱいである。
実践的思想書であり、実行可能性を踏まえて読もうと思っている。
実践的思想書であり、実行可能性を踏まえて読もうと思っている。
2020年10月6日に日本でレビュー済み
一応、岩波文庫版を後から購入して読んでみたのだが、あちらのほうが注解がとても詳しく、また「カイエ」にも忠実な気がするので、初読ならあちらがお勧めかも知れない。
しかし、哲学をなぜ知性の遊びとしてしまい、自らの人生で実験しないのか? 哲学とは生きることそのものだ。なにをのんきにレヴューなどしているのか?というのは自分も含め、同時代人には感じる。
ヴェイユの描く力学から、この時代への対処の方法の一つが見える。おそらくヴェイユはひとつの時代の希望だろう。彼女の力学はもっともっと深遠なもので、とことん読み込むに値するし、その文体は美しく感涙を誘う。
神と被造物と<われ>など、素晴らしい力学は多いが、ヴェイユを実践して突き抜けた立場から、不死の力学だけ取り出してみる。ヴェイユが適当に述べているわけではないことは、彼女の『哲学講義』も併せて読むといい。
現代の風潮に対して、警鐘としてわかりやすく書くなら、こんな感じにもなろうか?
人間の本質は悲惨にあるし、実際にそれが一番素晴らしい。これがわからないのは現実に囚われているのである。現実の実在はひたすら悪である。そこを無と看破しても、もう一度帰ってきてしまえば、ふたたび悪を蔓延させる。善とは神だけである。そして、神は実在しない。となると、人間は悲惨を知って、無を願うことが一番幸福に近い。なにせ、実際に世界が無なのではなく、自分が無だと気が付いた時には、その場には神が入り込んでいるのだ。自分は無だが、神だ。神ではないと同時に…。そう言う矛盾の旅が、必然の本質だことになるのだ。
しかし、哲学をなぜ知性の遊びとしてしまい、自らの人生で実験しないのか? 哲学とは生きることそのものだ。なにをのんきにレヴューなどしているのか?というのは自分も含め、同時代人には感じる。
ヴェイユの描く力学から、この時代への対処の方法の一つが見える。おそらくヴェイユはひとつの時代の希望だろう。彼女の力学はもっともっと深遠なもので、とことん読み込むに値するし、その文体は美しく感涙を誘う。
神と被造物と<われ>など、素晴らしい力学は多いが、ヴェイユを実践して突き抜けた立場から、不死の力学だけ取り出してみる。ヴェイユが適当に述べているわけではないことは、彼女の『哲学講義』も併せて読むといい。
現代の風潮に対して、警鐘としてわかりやすく書くなら、こんな感じにもなろうか?
人間の本質は悲惨にあるし、実際にそれが一番素晴らしい。これがわからないのは現実に囚われているのである。現実の実在はひたすら悪である。そこを無と看破しても、もう一度帰ってきてしまえば、ふたたび悪を蔓延させる。善とは神だけである。そして、神は実在しない。となると、人間は悲惨を知って、無を願うことが一番幸福に近い。なにせ、実際に世界が無なのではなく、自分が無だと気が付いた時には、その場には神が入り込んでいるのだ。自分は無だが、神だ。神ではないと同時に…。そう言う矛盾の旅が、必然の本質だことになるのだ。